世良と京子 とても幸せな夢を見ていた。
 そして、とても懐かしい夢だった。
 だから、ついポロっとあの人の名前を呼んでしまったのだろう。
「こらー!! 起きろっ!!」
「んっ」
「料理ができたぞっ!!」
「んんっ」
「せっかく温かいのに冷めるだろ、起きろっ!!」
「もうちょっと寝かせてくれ、京子(きょうこ)」
「はあ? きょうこ??」
「・・・、ああ螢ごめん、ご飯用意してくれてありがとう」
「きょうこって、何??」
「なにそれ?」
「さっきお前が俺に言った言葉だよ」
「えっ、そう?」
「そうだよ、何、もしかして彼女?」
「気のせいだろ、私は京子なんて知らない」
「なんだよ、隠すのかよ。いいじゃん、別に」
「知らないよ」
「嘘だ、さっきあんなにはっきり言ったじゃないか。誰なんだよ、きょうこさんって」
「新婚さんじゃないんだから、私が女の名前呟いたからってそんなに突き詰めなくてもいいんじゃない?」
「でも、気になるだろ」
「大丈夫、君が気にするような仲じゃないから」
「寝ぼけていてつい洩らした名前なのに?」
「君の名前を呼んだ事もあるよ」
「・・・・・」
「そんな嫌そうな顔しないでくれよ」
「それ、誰といる時に言ったんだ?」
「昔付き合っていた恋人かな。それが原因で別れました」
「やっぱり・・・。もしかして、紀子さんって人?」
「んっ、なんで知っているんだ?」
「電話がかかって来たんだよ。私の世良(せら)を返してよって」
「いつから私は紀子の物になったんだか・・・」
「注目すべきところはそこじゃないだろう。大体お前さあ、それだけの容姿に恵まれていながら恋人と長続きしないのって性格に問題があるんだって」
「性格の不一致は離婚の原因にもなるんだぞ。性格が合わなくて別れるのは当然じゃないか」
「だけどなあ、お前問題発言が多すぎるんだよ。えぇっと加奈子さんだっけ、その人とデートしている時に俺に会って、俺を紹介する時に私の一番大切な人って言うかよ普通!!」
「でも、事実だからねぇ。君みたいな弟が欲しいってずっと思っているから」
「お前はそう思っていても、向こうが誤解するんだよっ!!」
「まあ別にいいじゃないか」
「逆恨みされるこっちの身になってみろよ」
「でも、私も君の事好きな人に逆恨みされた事あるよ」
「えっ?」
「ほら、隣に住んでいる美香ちゃん。螢を頂戴と言われたんで駄目だよって断ったら、それ以来口を利いてくれなくてねぇ」
「美香ちゃんって、幼稚園児の?」
「そうそう。だから、君を犯罪者にするわけにはいかないから、私がきっぱりと断ってあげたよ」
「・・・」
「何か言いたそうな顔だね」
「もう何いっても無駄な気がするから、言わない。とりあえず、飯を食え!」
「はいはい」
「はいは一回でいい!」
「はい、いただきます」
 私達はリビングから食堂に移る。
「ほら、お前が妙な寝言言うから飯が冷めちゃったじゃないか」
「冷めても美味しいよ」
「当たり前だ。あんたの飯とは違う」
「そうだね」
「いいか、朝ご飯は冷める前に食えよ」
「了解」
「よろしい」
 歳をとるにつれ、嘘をつくのが上手くなったと思う。
 嘘をついて、嘘をついて、嘘をついて、いつか嘘を真実だと思える日が来たらいいのに・・・。
 そうすれば、・・・・。
「なんだよ気色悪いな、俺の顔じっと見て」
「あまりにも美しすぎて見惚れていたんだよ」
「嫌味にしか聞こえないぞ」
螢「本音なのに」
「じゃあ、美的感覚狂っているんじゃない? 一般的に言って、俺よりあんたの方が美人と言われているぞ」
「ありがとう」
「ほら、せっかく俺が作ったんだからちゃんと食べろよ!」
「おやおや、顔が赤くなっているよ」
「お前が、思いっきり嬉しそうな笑顔作るから悪いんだろっ!!」
「実際、嬉しかったからね」
「とーにーかーく、飯を食えっ!!」
「はい、いただきます」
 偽りを真実と思えたら、どんなに良いだろう。
 心の奥底の痛みを忘れられたら、どんなに幸せだろう。
 でも、こんなことを考えている間はきっと忘れられない・・・。

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