綺羅の頭を冷やすように、氷を袋に入れる。
 心臓がどくんどくんと激しくなっているのが聞こえる。
 私は、うろたえていることを綺羅に気が付かれないように、できるだけゆっくりと話し掛けた。
「で、本当は何しに来たんだ」
「さっき言った通りよ。兄さんに会いに来たのよ」
「私に会ってどうするんだ」
「どうして欲しい?」
「今すぐ帰れ」
「あら、いつも通りつれないのね。この世でたった2人の家族じゃない」
「家族だから、だろ」
「そう、家族だから好きなのよ」
「お前は、まだそんなことを・・・」
「永遠に続くわよ。この気持ちは」
「綺羅、いいかげんに私を追うのはやめろ。他にお前のことを大切にしてくれる男なんて沢山いるだろう」
「兄さんだって、京子さんのこと忘れられないんじゃないの?」
「・・・」
「自分にできないことを、私に押し付けないで。あの子、螢くんだっけ、京子さんに似ているわね。あの子の記憶を弄ってまでそばにいる理由は何?」
「お前には関係ない」
「私が兄さんを追っかけるのと、兄さんが過去にやった事、そして今やっている事、どっちがより道徳的に間違っているのかしら」
「綺羅、もうやめてくれ」
「何を?」
「私と京子のことはお前には関係ないだろうっ、ほっといてくれ・・」
「関係あるでしょ、兄さん。私は貴方の事が好きなの」
「いいかげんにしてくれっ! どうあがいたって、私はお前のことを妹としか見れないんだ」
「いいかげんにしたらどう。いくらあがいたって京子さんはもう帰ってこないのよ」
「そんなことはわかっている。わかっているさっ」
「じゃあ、螢に京子さんを重ねて見るのをやめたら。螢くんが可愛そうよ。兄さんの自己満足の為の犠牲になるなんて」
「違うっ、私は京子のかわりに螢を育てようと・・・」
「でも、足長オジサンだけでは嫌なんだ」
「京子のかわりに螢を立派に育てたいんだ」
「なぜ? なぜ育てるの。別に兄さんと京子さんの子供でもあるまいし」
「お前は私の犯した過ちについて知っているだろう。だから・・・」
「貴方は同じ過ちを又していることに気がつかないのね」
「?」
「まあ、いいわ。どうせ、螢くんには今日真相がばれてその過ちにストップがかかる」
「・・・」
「それとも、前と同じく今日の朝の記憶を弄る?」
「・・・」
「そんなことはさせないからね、兄さん」
「お前は、私に何をさせたいんだ」
「わかっているでしょう。貴方の逃げ道を塞ぐの」
「綺羅、お前は狂っているのか」
「知ってる? 恋とは人を狂わすものなんだって」
「・・・」
「ごめんなさい。そんな事は、兄さんが一番良く知っているわね。さて、螢くんが帰ってくるまでここにいさせてもらうわね。螢くんが来るまではおとなしくしていることを誓うわ、だから兄さんは安心して仕事していて♪」
「帰れ・・・」
「そんな事言うのなら、螢くんの学校に行こうかな」
「・・・、どうしてお前はいつも・・・」
ピンポーン
「ほら、お客様が来たんじゃない。お仕事しなきゃね、兄さん」
「妙なことするんじゃないぞ」
「螢くんが帰ってくるまでは何もしないって、信用してよ」
 クスクスと癇に障る綺羅の笑い声が耳にこびりつく。
 綺羅は真実を知っている。私が犯してきた罪の全てを・・・。
 今まで必死に創り上げて守ってきた嘘で固めた日常が、壊れてしまう・・・。

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