三
「くそっ、治がいない」
奈津と夕食と一緒に取る約束をして別れてから、俺は治を探した。
でも、どこを探しても治がいない。
まさか、吹雪に巻き込まれたとか?
胸騒ぎはこれかよ・・・・。
いや、まだ吹雪に巻き込まれたと決まったわけじゃない。
もしかしたら、奈津のお姉さんのホテルに方にいるかもしれないし・・・・。
でも、この胸騒ぎは・・・。
「明さん!!」
ホテルのロビーで悶々と考え事をしている所に、奈津が息を切らして駆け込んできた。
「奈津さん、どうしたんですか?」
「姉さんが、姉さんが帰ってこないのっ!!」
「えっ」
「治さんは帰ってきた? それとも、二人とも吹雪に・・・」
奈津は、泣き出しそうな顔で俺にすがりつく。
「奈津さん落ち着いて」
「でも・・・」
「ほら、もしかしたら2人して別のホテルに・・・ってごめん」
確かに2人して別のホテルに泊まっている可能性も在るけど、治なら連絡入れてくるだろうし。
それに、奈津がここまで心配するくらいだから吹雪に巻き込まれている可能性が高いよな。
くそっ、どうすればいいんだ。
「明さん、一緒に探してください!」
奈津は哀願するような表情で俺の顔を下から見上げる。
「もちろん、探すよ。でも、どうやって・・・・」
「外に出て探しましょう?」
「でも、まだ吹雪が」
「でも、姉さんと治さんが外にいる可能性が高いでしょ? お願いです、一緒に外で探してください」
こんな美少女にこういう風に頼まれたら、断りにくい。それに、治のことが心配なのも事実だし。
「あんまり奥まで行かないと約束してくれるね」
「はい」
奈津は嬉しそうに微笑んだ。
「奈津さん!! あんまり遠くへ行かないと言ったでしょう」
「でも、さっきあっちの方から姉さんの声が」
吹雪は俺達が探しやすいように一時期弱くなった。
でも、またいつひどくなるのかわからない。
「奈津さん、それなら俺達がそこに行くんじゃなくてこっちに呼び寄せなきゃ」
「でも、姉さん達は弱ってるわよ」
奈津は潤んだ瞳で俺を見上げる。
「わかった。俺が行ってくるから君はここで待つかゲレンデに行ってて」
「私も一緒にっ」
「駄目」
俺は、奈津を置いて歩き出した。
くそっ、また胸騒ぎが始まった。
でも、俺はしかたなく奈津の指差す方向へ向かって足を進める。
一歩、また一歩と胸騒ぎが大きくなる。
くそっ、俺には何にも聞こえないぞ。
しかも、吹雪が強くなってきてないか?
「明っ!!」
進行方向と逆から治の声。
「治っ」
俺は振り向いて目を細めて辺りを窺う。
「明、こっちだ!!」
しかし、姿は見えない。でも、声はする。
「おう、わかった」
なぜだろう、治の声と同時に胸騒ぎが小さくなった。
とにかく、治と奈津の姉さんが一緒にいることを願って治の声がするほうへと進行方向を変える。
そして、俺は声に誘われるまま雪の中を歩きつづけた。
でも一向に治の姿は見えない。声だけがする。
「おい、治! お前どこらへんにいるんだ!」
「あと少しだよ、明」
「はい?」
「あと少し」
「お前、俺の姿見えてるのかよっ」
「見えてるよ。だから、あと少しだって」
「くそっ」
なんだかよくわからないが、あと少しか。
俺は、がむしゃらに声のする方に走っていったが、一向に治どころか人影さえも見えない。
吹雪も強くなっている。
ただ、治の呼び声だけが聞こえる。
そして、次第に自分の体力と体温が奪われていく。
「治、どこがあと少しなんだ?」
「だから、あと少し」
「だから、何がっ!!」
「あと少し」
そのまま俺は『あと少し』を気を失うまで何10辺も聞いた。