·<>·<>·<>·<>·一章·<>·<>·<>·<>·

 俺は夢を見ていた。遥か昔のようでいて、つい最近のような気もする夢。
 きっと、こんな夢を見たのはアイツの呪いのせい。
「貴行(きぎょう)様っ、貴行様っ、起きてください」
「んっ? 誰だ?」
 俺の目に、月明かりに照らされた狩衣姿の少年が映る。
 高い鼻梁に形の良い唇、そして、心配そうに覗き込んでくる澄んだ瞳と長いまつげ。どれをとっても極上品と言われるもの。
 しかし、俺の周りには俺をかどわかす為に見目麗しい奴らがよく来る。
 『警戒せよ!』
 そう俺の心は、呟いた。
「私です、火衣(かい)です。このような所で御休みになられては体を壊してしまいますよ。さっ、中へ」
 火衣は顔に似合わぬ力で俺の腕をぐっと引っ張るが、俺はパシッとその手を振り払った。そして、そっぽを向いて呟く。
「入らない方がいい。穢れるぞ」
「えっ? どういう意味でしょうか?」
「穢れていいのなら、見るがいい。蝋燭は入って右にある」
「貴行様?」
 訝しげな表情を俺に向けてから、火衣は戸を開けて中に入った。
 しばらくして、ガタンという音がした。きっと火衣が驚いて後退りした時に何かに衝突したんだろう。その証拠に、悲鳴に近い声が間髪いれずに聞こえた。
「きっ、貴行様! こっこれはっ・・・」
 俺は、乱れていた服を直して火衣の側に行った。
 あたり一面は血飛沫で赤に染まっている。そして、その中心には血の気を失って倒れている男が一人。
「凄いな。これを自分がやったと思うと、ぞっとする」
「えっ。きっ貴行様が、こっこれを、やったの、です、か?」
 火衣の動揺は声に現れていてわかりやすい。
 俺は、乾いた唇を微かに歪めて笑った。それは、どことなく自嘲を含んだような笑み。
「そうだ、俺がやったんだ。俺がアイツを殺したんだ。でも、コイツが悪いんだ。コイツは、宝を見つけたら俺を殺すつもりだったんだ・・・。くくっ、俺は馬鹿だ、今までそんな事に全く気が付かなかったとはな。しかも、ずっと・・・」
 不意に昔の事が頭を過ぎって、俺は思わず頭を抱えてその場に座り込んだ。
 宝の為に俺を守ると言ったアイツ。一緒に暮らしていくうちに、宝の為だと言う事を忘れてしまった俺。
 アイツが優しすぎるから俺が勘違いしてしまったんだ。宝がなくても俺を守ってくれるんじゃないかって・・・。
 だから、あんな台詞を聞いて我を忘れてしまって、裏切られたと思って刀を抜いてしまったんだ。
 刀を抜いた後はよく覚えていない。気が付いたらアイツが俺の隣で倒れていた。
「貴行様・・・」
 ふわっと、火衣の腕が俺を包む。
「火衣?」
「泣いておりますよ、貴行様」
 泣く? この俺がアイツの為に? 俺を宝としか見なかったアイツの為に泣いているだと?
「長い間一緒に暮らしていましたからね。ずっと外から隔離して、貴方をここに閉じ込めて・・・。帝の使者である私でさえあまり貴方に会えなかった。大切にされていたのですね」
 火衣は俺の涙をそっと拭う。
「あいつは、宝の鍵である俺だから大切にしていただけだ。宝を手に入れる為になら、アイツはどんな事でもやるさ」
 俺は、火衣の澄んだ瞳を見つめ返す。
「でも、貴方を大切にしていた事は事実です。だから、泣いているのでしょう?」
「でも、アイツは俺を殺すと言ったんだ」
 オレの瞳から溢れる雫を、火衣は何度も拭う。アイツ意外の人に触れられるのは、何年ぶりだろう・・・。人の手とは、こんなに温かいものだったのか・・・。
 しばらくして、火衣は俺に触れていた手を離し、奥に転がっている死体に視線を向けた。
「宝はなぜ見つからないのでしょうか? 宝の鍵を側にずっと置きながら、あの方は何を待っていたのか・・・」
「宝の鍵が完全になる時」
「宝の鍵が完全になる時?」
 火衣は、驚いた顔で俺を見る。
 予想通りの反応。この事は極秘情報で極少数の有力貴族しか知らないのだから、こいつが知らなくても当たり前だ。それにしても、また宝の話か・・・。
 俺は目を伏せ、思わず呟く。
「人はみな同じだな。ここに来て、宝の話をせずに帰った者などはいない。俺を宝の鍵としか見ていない証拠だ」
「あっ・・・。そっそんなつもりで、口に、出した、訳、では・・・」
 火衣はあたふたとうろたえる。
 そんな反応を見て、俺は少し唇を緩めた。
 初々しい反応だ。ここの屋敷を訪ねてくる貴族達は、鉄仮面の二枚舌野郎ばっかりだったからな。
「そんなに気にするな。宝の魅力にとって、俺などは無に等しいに決まっている」
 俺の台詞を聞いて、益々火衣はうろたえる。
「そっそんな・・・。確かに宝の鍵である事は魅力の一つですが、あくまで宝の鍵は貴方の魅力の一つであって、全てではありません!」
 火衣は、さっきまでとはうって変わった力強い口調で反論する。その言葉に少し俺の心が揺らぐが、上達部達の弁に慣れた俺にはそれ以上の効果は無かった。
 そして、俺はいつも通りの口調で答える。
「見え透いた嘘を。そんな言葉で俺を口説き落として、宝を手に入れる魂胆か?」
 火衣の頬にカッと朱が走る。
「嘘ではありません!! なぜ貴方は御自分の魅力に気が付かないのですか!!」
 火衣はとうとう声を張り上げた。
 そして、つられて俺までも大声を出してしまう。この時の火衣の声には、それだけの力があった。
「気が付いている! 宝の鍵という魅力が周りの人と自分を狂わしている事ぐらい。その魅力だけが、やたらと俺の体からにじみ出ている事も!」
「気が付いていない! 私が貴方に感じている魅力はそれだけではありません。貴方は素晴らしい人です。自信を持ってください。宝なんかに、心を乱されないでください。私は、いつでも貴方を崇拝しています。だからっ」
 俺の瞳は火衣の真剣な瞳にぶつかる。その刹那、耳を塞ぎたくなるような衝動にかられる。
 ヤメロ コレイジョウ イワナイデクレ
 オレガ コワレテシマウ
 気が付くと、俺はとっさに刀を抜いて火衣の喉もとにピタッと当てていた。
「それ以上言うな。それ以上言うと、この刀でお前を殺す。この刀はさっきアイツを切った刀だ。いい切れ味だったぞ。死にたくなかったら、とっとと帰れ!」
 不意に、火衣の姿が俺の視界から消える。
 カキンッ
 刀と刀の触れ合う音がして、手に痛みが走る。俺の刀は空を舞って庭に落ちた。
 俺は驚いて火衣の方を見る。火衣は、自分の刀を鞘に納めている所だった。
「凄い実力だな。そっちの力で宝を手に入れるのか?」
 俺は火衣から一歩遠退く。
「貴行様、さっきから申しているでしょう。私は宝を手に入れたい訳ではないと。どうして信じてくれないのですか」
 火衣の目は切実に俺に懇願している。それは、俺の中の閉ざされた一部分を微かに揺れ動かす。しかし、所詮微かである。俺の台詞を変えるほどの力など、生まれてくるはずが無かった。
「人の言葉ほど、信じられぬものは無い」
 俺はぴしゃりと言い放つ。
「ではどうすれば・・・」
「人ほど、怖いものは無い」
 俺はもう一度ぴしゃりと言い、火衣に背を向けて屋敷のさらに奥へと下がっていった。
「貴行様!」
 火衣の俺を呼ぶ声は、やけに心に響く。
 嫌な声だ・・・。つい愚かな希望を持ってしまうではないか・・・。本当に、嫌な声・・・。
 呼び声が聞こえなくなった時、すぐに後ろを振り返った自分が馬鹿だと思う。今更、何を期待しているのか、俺は・・・。
 火衣も俺をかどわかして宝を手に入れようとしている奴らと同じはずだ。
 もう二度と人など信じはしない、そうさっき決意したのに・・・、俺は本当に弱い奴だな・・・。
 月夜に、俺の自嘲の笑い声が響いた。

*   *   *

 みゃーみゃー
 眠っている俺の耳元で、猫の鳴き声がする。
 俺は重い瞼を持ち上げながら、鳴き声がする方に視線を送った。
「またやって来たのか、お前」
 みゃー
 俺は擦り寄ってきた馴染みの猫を抱き上げて優しく包んだ。
 自然と柔らかな表情になり、心が落ち着く。
「お前は、嘘なんかつかないものな」
 みゃー
「くすっ、本当に可愛いな」
 みゃーみゃー
 すっかり懐いているこの猫とじゃれていると、不意に美味しそうなご飯の匂いがした。誰かいたのか?
「誰だ?」
「猫と戯れている姿は、昔と変わらないのに・・・」
 そこには、悲しそうに微笑んでいる火衣が立っていた。
「また、お前か・・・」
 俺は急に不機嫌な顔になる。
 そんな俺を見て、火衣は今にも泣きそうな表情になった。
「私は、猫のように可愛がってもらえないんですね」
「人と猫は違う。何の用だ、火衣」
「ご飯を作りました。昨日まで貴方の世話をしていた人がいなくなりましたので、私が代わりに」
「蔵人の職務にご飯作りがあったなんて、初耳だな」
 俺は、挑戦的な瞳を火衣に向ける。
「いえ、特別です。私が貴方の世話役を志願したので」
 火衣はにこっと微笑む。
「もの好きだな」
「よく言われます。でも、味には自信があるんですよ、食べてください」
 俺は無言で立ち、火衣の後について食事が用意されている部屋へ行った。
 自身があると言っていただけあって、本当に料理は美味しかった。
 俺は何も言わず黙々と食べ、火衣は隣でそんな俺を不思議そうに見つめていた。
「料理を作っていてくれたことに関しては礼を言う。でも、もう俺に関わるな」
 料理を全て食べ終わって、俺はそう呟いた。
 そして、火衣を睨んで脅そうとしたが、逆にあいつの澄んだ瞳に呑み込まれてしまい、それから先の言葉が喉に詰まる。
「貴行様。貴方様の兄上からの伝言です。『アイツは物の怪に殺されたとして処分した。すぐに新しい後見人を選ぶから安心してくれ』以上です」
「くっくっくっ。物の怪か・・・。俺にピッタリの名称だな。兄上も、なかなか粋な事をなさる。あはははっ」
 俺は大声で笑い出す。
「貴行様っ」
 火衣は心配そうに俺を見つめる。
「くっくっくっ。お前はいつも綺麗事ばかりを言うな。しかし、実際はどうだろうな。お前は何のためにここに居る? まあ、答えはわかっているがな。くくっ」
「貴方様には私の考えなどわかりません!!絶対にわかりません。ご自分の気持ちでさえ理解できない貴方、自分の気持ちを押さえ込んでしまう貴方には、私の気持ちなど理解できないでしょう」
 狂ったように笑う俺、いや本当に狂っているのかもしれない俺に火衣は必死に訴える。
「俺が、自分の気持ちを理解できない? 自分の気持ちを押さえ込む?」
 火衣の訴えは俺の心を揺るがす、だからこそ俺の心の反発も大きい。
 普段なら聞き流せるはずの言葉も、こいつの口から発せられると何か巨大な力が作用しているようで聞き流せない。
「昨日だって、本当は大声で泣きたかったのでしょう。心は、凄く悲しかったのでしょう。あの人の事を、ずっと慕っていたはずなのに・・・。宝の為だと言われていたけれど、本当は自分自身を大切にしてくれる事をずっと願って・・うっ・・・」
 俺の心が悲鳴をあげる・・・
 これ以上こいつの言葉を聞きけない、と思った。
 そして、俺は火衣の首に手を回す。
「ああそうさ、お前の言う通りだよ。でも、自分の気持ちを気がつかないふりして押さえ込んでいく以外に、俺が生きていく道は無いだろ? 慕っていた人を衝動的に殺した自分を憎んで、憎んで、憎んで、最後に自殺しろと? それとも、悲しみで発狂して宝の関係者を皆殺しにしろって言うのか?」
 ぐっと手に力を入れる。
「ちがっ、くぅー・・」
 火衣は苦しそうに顔を歪めるが、一向に抵抗する様子は無い。ただ、ずっと俺の顔を見ている。
 そして、すっと瞳を閉じた。
 何で抵抗しないんだ?
 また、心が揺れる・・・
 火衣の歪めていた顔が急に動かなくなった。
 俺は、はっとして手を離す。
「火衣?」
「・・・」
 無返答の上、瞼がぴくりとも動かない。
 俺は恐る恐る脈を取ってみる。
 どくん どくん どくん
 心臓は動いている。気を失っているだけか・・・。
 俺は、こいつまでも殺そうとしたのか・・・・。
 もうすでに俺は発狂しているみたいだ、人を襲う物の怪として・・・。
「すまない、火衣」
 俺は自分の袿を火衣に被せて、その場を去った。
 しかし、どこに行けばいいのか解らず、結局自分の屋敷内をうろうろするはめになった。
 ちょうど門の辺りにきた時、入り口に人影を見つけた。向こうも俺を見つけて、こちらに駆け寄ってくる。
「貴行様ですか。勝手に庭を覗いてすみませんでした、声をかけても誰も出ていらっしゃらないので・・・」
 頬を紅潮させた牛飼い童は、俺を見てにこっと笑った。
 子供特有の無邪気な笑い・・・
「用件は?」
「内大臣様が貴方様に重要な話があるとおっしゃっています」
「内大臣が? して、何処にいる?」
「すぐそこの牛車の中に居ります。今すぐ、呼んで参ります!」
 そう言うやいなや、牛飼い童は駆け出した。
 俺にも、あんな時代はあったのか・・・。

*   *   *

 内大臣は一人でやってきた。よほどここに来た事を秘密にしたいようだ。
 俺は、内大臣を一番立派な部屋に案内した。
「久しぶりですね、内大臣殿。ところで、今日のご用件はなんですか?」
「貴殿の後見人の事だ。是非、私を指名していただきたい」
 内大臣は、ニヤリと笑う。
「私の後見人になれば、こっそりと宝の一部を取れますからね。しかし、そんな事を言うからには、何か私にとって利点があるのでしょう?」
「ええそうです。もし私を指名していただければ、貴方に貴方以外の宝の鍵となる人と会わせてあげます。会いたくありませんか?」
 俺は思わず目を見開く。
「なっ!!」
 内大臣は、俺の反応見て満足そうに微笑む。
「信じれないかもしれませんが、本当ですよ。美しい姫ですよ」
 どくんと胸が高鳴る。
 俺と同じ運命を背負った人。一体どんな人だろう? その人なら、宝の鍵ということを除いて接してくれるだろうか? 同じ苦しみを味わっているその人なら、俺は信じれるかもしれない。一人の普通の人間として、向き合えるかもしれない。
「解りました。私から兄上にお願いしましょう」
「商談成立ですな。あと、今ここで貴殿の背中を見せてくれませんか?」
 俺を宝の鍵として見る瞳。
「宝の地図をだろ?」
「そうとも言いますね」
「・・・」
 俺は無言で上半身の着物を脱いでいく。
「おや、袿は着てい無いんですか?」
「関係ないだろ。ほら、見たければ見ろ」
 太陽の光に背中が照らされて、地図が浮かび上がる。
「ほおぉ、姫の背中の地図も素晴らしいが、貴殿のもまた素晴らしい」
 愛しそうに俺の背中を指でなぞる。
 不意にこの手で殺した元後見人の姿が浮かぶ。
「アイツも、それを見て嬉しそうにしていた・・・」
 背中をなぞる指。
 それは、いつも同じところで止まる。そう、宝の場所で。
 その度に、俺は宝の在処を示す地図でしかないと思わされる。
「貴殿の元後見人の栄紀(えいき)殿のことか。それにしても、宝の鍵である人はみな麗しい。この老いぼれの目の保養になりますなあ」
 そう言って、内大臣は俺の背中の宝を示す部分に接吻した。俺に寒気が走ったのは言うまでもない。
「では、私が貴殿の後継者となった次の日に会わせましょう。約束ですぞ」
「ああ、承知した」
「ではもう帰るとしよう。ここに来たのが他の人にばれると厄介なのでね」
「・・・」
「相変わらず、無愛想ですな」
 内大臣はそう言い残して去って行った。
 俺は脱いだ着物を手際よく着付け、とにかくこの部屋を出ようとした。
「貴行様」
 火衣が、どこからとも無く俺の前に現れてきた。首には、俺の手の跡が生々しく残っている。
「火衣・・・」
 こういう場面では、優しい言葉をかけるべきなのだろう。しかし、俺にはできない。俺は、人の対応について殺すと操るしか知らない。それしかアイツに教えてもらわなかった。
「袿、ありがとうございます」
 微かに、火衣の声が掠れている。それに、少し怯えているようにも見える。
「そこに置いとけ。そして、とっとと失せろっ!!」
「また、明日来ます」
 火衣は俯く。俺の顔を直視して言う事ができなかったのだろう。
「火衣、兄上に次の後見人は内大臣にしてくれと伝えてくれ」
「解りました」
 火衣は恭しく礼をして、俺の屋敷をあとにした。
 そして、俺は一人になった。
 静寂という言葉がピッタリなほど、辺りは静かになった。
 こんな中でじっとしていたら気が変になりそうで、俺はとりあえず動く事にした。
「まだ、死体の片付けをしていなかったな・・・」
 俺は立ち上がり、庭の隅に穴を掘り始めた。
 思い返せば、俺の人生の半分以上もアイツに拘束されていた。アイツは、俺の前で何人もの人を殺した。宝を奪おうとする者は、全てを切り捨てていた。アイツと最初に会ったときも死体が数体転がっていた。俺が宝の鍵であると証言した陰陽師をはじめ、俺の付き人などを七歳の俺の目の前で殺した。そして、宝の為に俺を守ると言った。今思えば、その頃から俺は少しずつ狂い始めていたんだ。
 気がつくと、俺はまた泣いていた。
「宝なんか、いらない・・・」
 いつの間にか雨が降り始めていて、俺は涙を流しながら雨にうたれて作業を続けた。
*   *   *

 体が熱い。
 俺は、重い瞼を押し上げて目を開く。辺りは真っ暗で、空には朧月があった。
 いつの間にか眠っていたらしい。しかし、体が熱くてだるい。何か。変な物の怪にでも取り付かれたか?
 ガサッ
 足音? また火衣か?
 ガサッ ガサッ
 火衣じゃないな、あいつはこんな足音を立てない。では、誰?
 俺は、思うように動かない体をなんとか起こして、足音のする方へ向かって怒鳴った。
「誰だ!!」
 足音が止まる。
 そして次ぎの瞬間、ヒュっという音と共に何か鋭い物が俺の利き腕に突き刺さる。
「うっ・・」
「貴行様ですね。ご同行をお願いします」
 聞いたことが無い声、誰だ?
「はっ、誰が名前も明かさぬ奴なんかにっ・・うっ・・」
 ガックンと体中の力が抜ける。さっき刺さった物に何か塗ってあったか・・・。
「さあ行きましょう、貴行様」
「畜生・・・」
 抵抗しようと手足に力を入れようとするが、全く力が入らない。
「抵抗しようとしても無駄ですよ」
 アイツが居たら、土の中のアイツが生きていたら、俺を助けてくれただろう。ただ、宝の為だけに・・・。
 畜生っ、俺は自分で殺しておきながらも、まだあいつを探し求めているというのか・・・。
 俺は、途方も無く馬鹿だ。
『また明日来ます』
 ふっと脳に火衣の台詞と姿が過ぎる。
 もし本当に火衣が来たとしたら、あいつは一体どうするのだろう。俺が居ないと知ったら、あいつはどう思うのだろう。
 お前は、心配してくれるか・・・?

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